父が亡くなって21年、母が亡くなって10年。長い間空き家になっている実家をそろそろどうにかしなくてはと思い立った。
  実家は滋賀県草津市にある。15坪の狭い土地に印刷業をやめた父が28年前に初めて建てた家である。

  遺品整理業者にほとんどすべてを持っていってもらったが僕が描いた父の肖像は手元に残した。
  1994年大津日赤病院に入院中の父である。亡くなる3年前。嬉しそうに笑っている。見舞いに来てくださったドイツ人宣教師ゴッドホルド・ベックさんが撮影した写真を元に色鉛筆で描いた。
 父の葬儀の時に来て下さった女性がこの父の肖像画を見て「天国とはこのようなものなのですね」とおっしゃった。絵に描かれた天国を初めて見る思いを伝えて下さった。
“『そら、ここにある』とか、『あそこにある』とか言えるようなものではありません。いいですか。神の国は、あなたがたのただ中にあるのです。」”
ルカの福音書 17章21節
  表現したいものは描いている時には分からないが後になって「あー。僕はこんな事を表現したかったのか」と気づくものだ。
  僕は父の肖像を描く事で父のただ中にある神の国を表現したかったのかもしれない。